母と戦争

 先月24日に配信開始になった電子書籍『あなたの そして わたしの 物語』は、母に捧げる本として、母の人生について書きました。その過程で、思っていた以上に母のこと・生きていた時代について知らなかった・・・ということが分りました。

 

『わたし達は、歴史上の人物・著名人の人生や家系図も知っているのに、身近な人の人生や、自分の先祖のことは知らないのです。そしてそれは、興味を持って聞かない限り開かれない世界であり、その人がこの世界から去ってしまうと、もう開かない世界なのです。これを書くにあたってインタビューした人たちの記憶も曖昧でした。』

(あとがきより)

 

 執筆するにあたり母の年表を作成し、家族の動向や時代背景について書き込んでいきました。その作業を通じて、母の思春期が第二次世界大戦と重なっていることが分りました。また、時代背景を調べたことで同時代を生きていた人への感覚が研がれたようでした。

 

 執筆中のあるとき、録画したまま埋もれていたビデオを観ていて、その作者が母と同じ年齢ではないのか?と感じました。それは、母の戦時中の体験と重なる部分があったからでした。その作品は、NHKドラマ『花へんろ』(総集編)。脚本家 早坂 暁(はやさか あきら)さんが、ご自身の体験をもとにして書かれた作品でした。そして未完成の作品であった『花へんろ 特別編 「春子の人形」』でした。

 調べてみると早坂 暁さんは、1929年8月のお生まれでした。母が翌月の誕生なので、ほぼ同じ時期を生きておられたことになります。そのことが分ってからそのドラマを見るとき、わたしが生まれる前の、母の生きていた時代の生活を感じられる貴重なものとなりました。そして、その作品の向こうに母の存在を感じるようになりました。

 

 今年の8月9日。長崎平和祈念式典で、「平和への誓い」の壇上に立たれた被爆者代表の岡信子さんは、母の1つ下の年齢の方でした。大阪の看護専門学校に通われていて、大阪大空襲で病院が爆撃されたため、長崎のご実家に帰郷されていたときに被爆されたと、宣言の中で語られていました。

https://mainichi.jp/articles/20210809/k00/00m/040/049000c?fbclid=IwAR30wExRupvHcP9PRcN5EFqGRWIoTihgVpQldvH0YWAcca4iTrX6Y6i_6aE

mainichi.jp

 

 母は、神戸の女学校に通っていて神戸大空襲に遭っています。場所は違えど関西で空襲に遭い、岡さんは更に故郷で被爆されました。

 作品が出来上がり、叔母に読んでもらうため原稿をコピーして渡しました。その後連絡をした時、「(冒頭しかまだ読んでいないけれど)戦争のこと、これはとても表面的で、きれい事しか書かれていないね。」と言われました。実際に母が体験した出来事から聞いて、覚えていたことのすべてを書きました。しかし、それ以外の聞いていないことは書きようがありませんでした。そのため、調べた史実に基づいたもの、そのうち引用は許可のいただけた内容のみになりました。

 そのことを伝えると「姉さん、辛すぎて話せなかったんだろうね・・・。」といって、叔母の覚えていることを少し話してくださいました。わたしにとっては、その叔母が今、話してくださることが望んでいることでした。母の妹たちである叔母は89歳(入院中)と83歳になっておられます。直接話せる機会があるのは、83歳のこの叔母しかいらっしゃいません。

 

 叔母はいつも、「お盆やお彼岸は先祖のことを話すのによいとき」とおっしゃいます。今年のお盆は全国的に大雨となっていて、感染症対策もあり集うことは難しいですが、先祖について思いを馳せることはどこにいても可能です。

 また、あす8月15日は終戦記念日。さまざまな苦難に遭った方々の上に、わたし達の今があります。

 直接話を聞ける機会を大切にしたいと希っています。

 

『戦地に赴き、失われた命も多くありました。外地から帰還出来なかった命も多くありました。日本国内では、空から焼夷弾・爆弾が大量に投下され、街は焼失し、住む場所を失い、家族を失い、多くの命が失われました。食糧難もありました。途絶えた家系もあるでしょう。(中略)ここに生きている。それは先祖からの繋がりが、ただの一度も途切れなかったということです。あの戦争の時代を生き抜くことのできた命が、今続いています。』(第一章より)

 

『あなたの そして わたしの 物語』Amazon  Kindle
幸せな人生とは?後悔のない人生とは?母が最期に教えてくれたこと
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